シングルマザーになった女性が働くため保育所を探すものの、100人以上の「待機児童」が順番を待っています。
そんな時お隣さんが娘を預かってくれると言うのでお願いするのですが、尋常ではない程に娘を大事にして家に帰らせないようになってきます。
私設の保育所に預けようとしたところ、お隣さんは娘を奪って立てこもり…。
タイトル:虐待容疑の女~痣だらけの背中は語る~ (ストーリーな女たち)
作者:秋山紅葉
1.虐待容疑の女~痣だらけの背中は語る~
2.善意の悪行
3.一枚の紙
4.子供はペットじゃない
5.嫁の役割
恐怖度 ★★★★★
おススメ度 ★★★★★
あらすじとネタバレ
主人公は百瀬 一美(ももせ かずみ)35歳。
この体験は一美がシングルマザーになったばかりの、1年ほど前の出来事です。
生活のために働かなければならなくなったものの、すぐに就職できたわけではありませんでした。
一美が働くためには、娘のミコを保育所へ入所させる必要があったからです。
しかし娘の前には100人以上の「待機児童」が順番を待っていたのでした。
そんな時にアパートの隣に住む萩原さんがやって来て、
「よかったら私にミコちゃんを預からせて?」
と言ってきたのです。
一美は夫との離婚を反対された時から母親と疎遠になっていたため、萩原さんの申し出は大変ありがたかったのです。
萩原さんは子供がおらず、「ミコちゃんがいてくれた方が賑やかで楽しいわ」と言って、進んで娘を預かってくれました。
始めの頃は後追いして泣いていたミコも、今では萩原さんになついています。
そのため一美も安心しきっていたのですが…。
ある日のこと、残業で帰りが遅くなった一美はアパートに帰ると、
「百瀬です、遅くなってすみません」
と萩原さんの部屋の呼び鈴を押すのですが、
「ミコちゃんもう寝てしまったのよ」
「起こすのはかわいそうだからこのまま泊まらせるわ」
「おやすみなさい」
と玄関を開けもしないのです。
その夜一美は娘の宝物のぬいぐるみを抱きながら、一人寂しく眠ったのでした。
そして翌日仕事に行く前に萩原さんのお宅に伺うと、
「あっ、ママ」
とミコがパジャマ姿で飛び出してきました。
しかしそのパジャマは一美がお昼寝用に預けたものではありません。
萩原さんの部屋の中をのぞくと、そこにはミコのために買ったと思われるおもちゃや食器、歯ブラシなどが必要以上に揃えられていたのです。
この萩原さんの行動に不安を覚えた一美は、
「今日はイイです!」
と言ってミコを抱きかかえると、託児所へ駆け込むのでした。
しかし暴れるミコを見た職員は、
「こんなグズッて暴れる子はムリです」
と断られてしまいます。
さらに上司から電話がきて、
「無断欠勤する気か!今すぐ来い」
と連絡が来てしまうのです。
どうしようもなくなった一美は、仕方なく萩原さんのところへ戻りミコを預け会社へ行くしかありませんでした。
萩原さんも嫌な顔一つせず、
「はい、お仕事頑張って」
と一美を送り出してくれたのです。
しかしこのままではマズイと感じた一美は、ミコを私設託児所に預けることにしたのです。
そして萩原さんの部屋まで伺うと、
「今までお世話になりました」
と言って頭を上げると、萩原さんの顔が鬼のような表情に変わっていたのです。
そして
「ミコちゃんから私を取り上げる気なのね」
と言ってミコを力いっぱい抱きしめます。ミコは
「こわいよママ…」
と怯えてしまっています。
そして萩原さんは一美を「出てけっ」と追い出して、部屋の扉を閉めてカギをかけてしまいます。
一美は警察に電話しなければと思い、自分の部屋まで走っていくと急いで電話をかけます。
しかしパニックで自分でもどこにかけているのかもわかりませんでした。
「はい」
と電話がつながると、聞きなれた声でした。
つながった相手は一美の母親だったのです。
「助けて…お母さんミコを助けて…」
と母親に事情を話すと、アパートの不動産会社を介して萩原さんの旦那さんに連絡を取るようにとアドバイスをくれたのです。
そして駆けつけた萩原さんのご主人の説得で、ミコは無事に解放されたのでした。
一美は後日改めて弁護士を立て、萩原さんには正規の託児所と同額分を支払うことで、気持ちの折り合いをつけてもらうことにしました。
萩原さんは、
「私は納得できません」
「お金の問題なんかじゃないんです!」
と言っていましたが、ご主人が何とか説得させたのでした。
一美は萩原さんの善意に甘え過ぎていたことに反省し、そして気付くべきだったと思うのです。
子供のいない萩原さんがどれほど子供を欲していたのかを…。
その後一美は実家に戻ることにしました。
両親は目を細めて娘を見てくれているので、今でも仕事を続けられているそうです。
感想とまとめ
「善意の悪行」は結構ショッキングなお話でした。
子供のいない萩原さんは、ミコを預かっているうちに愛情が湧いてきて自分の子供みたいに思ってきてしまったんでしょうね。
もしも自分が一美だったら、かわいそうだけど萩原さんには子供を預けられないなぁ~と思います。
お金もかからず子供を見てくれるのは嬉しいけど、子供を奪われそうで不安ですよねぇ。それに寝てるからと言って子供を返してくれないわけだから、ある意味誘拐に近いんじゃないかと感じました。
最後の「ミコちゃんから私を取り上げる気でしょ」という発言…。
私から~じゃなくて、ミコちゃんから~と言うのがちょっと悲しかったですね。
きっと子供が欲しかったんだよねぇという事が萩原さんの行動から見えてきて、読みながらなんだか切なくなりました。
一美も結果的には実家に戻って、両親に子供を見てもらうことが出来て良かったエンディングになりましたが、なんだか心に引っかかって、考えさせられるお話でした。
とても良い作品でしたので、ストーリーの女たちの「善意の悪行」が気になったという方はぜひ読んでみてくださいね。